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Shining Rhapsody

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228話 アストリア王都強襲2

 228話 アストリア王都強襲2

 

ルーク達が4対1の鬼ごっこを続ける事30分。約束の時間となった為、再び王都へ向けて火球を放つ。但し今回は5発動時に。

(4人相手だから・・・今回は5発にしておくか。1回は1回なんだし、嘘は吐いてないからな?)


有り得ない程の大きさだが、れっきとした初級魔法のファイアーボール。この4人ならば難なく防いでしまうだろう。狙いどころが悪ければ、エレナ1人で防ぎ切る可能性だってある。

それに4人の内の誰かが王都を守らず、ルークに攻撃を仕掛ける可能性も捨て切れない。そうなれば複数被弾する事となるが、嘘を吐いた事にはならないので気にしない事にした。


これまで王都の防壁しか攻撃しなかったルークの魔法は、狙いを大きく変える。1発はこれまで通りに防壁を。残りの4発は建物に向かって行った。

双璧に守護神とまで呼ばれる4人。流石に人的被害の恐れがある攻撃を防がない訳にもいかない。ルークの想定通り、建物に向かった火球に対処する。当然対処出来なかった1発は、防壁に命中するのだった。

ーー ドーン!

「「「「くっ!」」」」

防壁が大きく損傷した事で、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる4人。だがすぐにルークへと向き直る。元凶を排除しなければ、また同じ事になると理解したからだ。

次の攻撃に対処しようと身構えるが、ルークが魔法を放つ気配は無い。判断に迷い、お互いのパートナーと視線を交わす4人。その一瞬の隙を突いて、ルークは何処かへ転移してしまう。

「「「「っ!?」」」」
「消えた?」
「何処?」
「転移ね!」
「・・・いない?」

初めて転移魔法を目にした双璧の2人は、完全にルークを見失う。だが、エレナとアスコットはすぐに何が起こったのかを察し、ルークが居そうな場所へと視線を移す。が、見つからない。それもそのはず、ルークは王都から大分離れた森へと転移していたのだから。

「まだまだ余裕だけど、そろそろ村のみんなが来ると思うんだよな。何も無しじゃ流石に厳しいから、得物を用意させて貰うよ?」

そう呟くとアイテムボックスから美桜を取り出し、近くの大木から手頃な太さの枝を斬り落とす。さらに色々と道具を取り出し、整形して即席の木刀を作り上げた。

素振りする事数回。出来に満足したのか、今度は菱紙と柄糸を取り出して柄巻きに取り掛かった。手慣れた作業である事と、驚異的な身体能力のお陰なのか。完成までに要した時間は僅か5分。何故木刀にそこまで拘ったのかと言うと、大した意味はない。単なる思い付きであった。


完成した木刀を腰に差し、手には小さな木の枝を持って王都へと戻る。

「・・・あれ?誰もいないな。」


ルークは気付いていないが、エレナ達にとっての5分は長過ぎたのだ。周囲にルークの姿が見つからなかった事で、王都内部へ移動したのではと考えた。今まさに全員が必死になり、王都の中を駆け回っていたのである。

「ヤボ用とは言え約束は約束。4人が戻るまでの時間はノーカウントだな。仕方ない・・・」

そう呟くと、一瞬だけ魔力を放出する。普通であれば気付かない程の短時間。しかしエレナ達は気付いたのだろう。数分程待っていると、4人がほぼ同時に戻って来た。

((((・・・枝?))))


戻って来た4人が考えた事は同じものだった。ルークの右手には、先程まで無かったはずの小枝が握られていたのだから。腰に差した木刀に気付かないのはどうかと思うが、それだけ余裕が無くなっていた証拠とも言える。

警戒する4人に対し、ルークはクイクイと手招きをする。警戒して動けずにいる双璧を尻目に、アスコットが単独で飛び掛かる。その手にはショートソードが握られており、本気を出した事がエレナにはわかった。

こうなるとエレナでは近付けない。魔法職であるエレナが加われば、確実に巻き込まれるだろう。そう判断し、エレナも覚悟を決めた。風と水魔法を中心に放ち、アスコットの援護に回る。

(この状況じゃ、母さんは大きな魔法を撃てないか。でも全部躱す予定のオレにとっては、小さい魔法を連発される方がキツイ。それはともかく、父さんの戦闘スタイル。剣で相手の攻撃を受け流して格闘で決める感じだな。・・・枝を持ったオレには不利だと思うぞ?)


ルークが考えた通り、枝を受け流すには大袈裟な武器である。いや、枝を切るには充分過ぎる武器とも言えるかもしれない。しかしアスコットにとっての誤算が1つだけあった。それは枝を振るうルークの一撃が速すぎる事。

どんな武器よりも軽い為、ルークの太刀筋・・・枝筋が見えないのである。しかもルークは魔力で枝を強化している。まぁ、これは攻撃力を上げる目的ではないのだが。


今のルークが力を込めて振れば、当然枝は折れる。アスコットを叩いても折れる。それでは意味が無いのだ。出来る限り折れないような力加減をするつもりではあるが、枝の耐久性などルークにはわからない。変な話、全力で枝を強化するよりも木刀で目一杯加減した方が良さそうなものではある。

頭に血が昇っているルークは、そこまで細かい事を考えてなどいない。アスコットの攻撃を躱しながら、隙の出来る軸足を叩く。執拗に、しかも寸分違わず同じ箇所を何度も何度も。動けずにいた双璧には、まるで弟子に稽古をつける師匠のように見えたのだった。


それは当然エレナに対しても行われる。エレナの場合、移動しながら魔法を放っているのだが、利き手と利き足に意識を集中するクセがあった。ルークは攻撃の合間を縫って、的確に利き手と利き足の逆、左の手足を叩いていた。

エレナとは距離がある分、どうしても攻撃回数が少なくなる。だがアスコット程鍛えていないせいで、結果としてはほぼ同時に動きが鈍る事となる。

「くっ!・・・どうなってやがる!!」
「旅に出て、急成長したのかしら?それとも、やっぱり、実力を隠して・・・いたの?」
「・・・・・。」

全く手も足も出ない事が納得出来ず、エレナとアスコットが問い掛ける。当然2人と会話する気の無いルークは沈黙を貫く。相変わらずの無表情だったが、実は内心呆れていたのだった。

(戦闘中に聞いてどうするんだよ?納得出来ない事が聞きたくなる気持ちはわかるけど・・・普通は全部終わってからだろ!)


再びイライラし始めたルークは、ふとある事を思い出す。

(ティナとナディア、フィーナの3人がボコボコにされたらしいな。会話しないつもりだったけど、ここは是非とも礼をしないとな。)

「今回の一件、時間が来るまでは無関係な者達を無視するつもりだったが・・・。アスコット=ブランシェには妻達が世話になったらしいな?丁度良い機会だ。妻達に代わって礼をしておこう。ついでだ、他の3人も一緒がいいか。」
「「「・・・礼?」」」
「貴重な体験だと断言しよう。きっと新しい景色が見られる事だろう。」

ニヤリと笑っている表情とは対象的に、その眼光は鋭いまま。3人が思わず聞き返してしまう。

「貴重な体験?」
「新しい景色?」
「・・・嫌な予感しかしないわね。」
「ぶつかっている、もしくはぶつかるであろう壁の向こう側だ。仮にそれが見えなくとも・・・あの世の景色は見えるだろうさ!」


そう言いながら、持っていた枝を放り投げる。そのまま流れるような動きで木刀を構えた事で、4人は瞬時に魔力を解き放つ。これまで培ってきた経験が告げている。気を抜いた瞬間に終わってしまう、と。それが戦闘なのか、人生なのかまではわからなかったが。


双璧の2人が腰の剣を抜き、一気に距離を詰める。タイミングを合わせたエレナは、自身と夫に治癒魔法を行使したのだった。

 

(この2人もショートソード?いや、微妙に長いな。剣技だけでもなさそうだが、体術とは思えない。となると・・・魔法か?)

斬り掛かる2人の初撃を目視しながら、瞬時に分析を行うルーク。

片手で扱えるギリギリの長さで作られた、双璧の2人独特の武器。アスコットの物とは異なり、相応の威力を持つことが伺える。伺えるのだが・・・今回は無意味に終わる。


(残念ながら、オレは木刀なんでな。打ち合ってなどやらん!)


内心呟くように、真剣と刃を交えるような真似はしない。どこぞの神木から作られた物凄い木刀、などでは無いのだ。その辺に生えている木の、適当な枝である。余程のナマクラでもない限り、打ち合った瞬間に切り落とされる事だろう。


だからと言って、完全に躱すつもりも無い。否、躱す必要など無い。ルークから見て左から斬り掛かるゴルディオーラの剣。その柄頭を払った反動を利用して、反対側のシルヴァリーナの手首を突く。

続けて返す刀・・・木刀でバランスを崩したディーラの、ガラ空きの胴へと強烈な一撃を打ち込んだ。

 

ある程度の実力者ならば、樋などのサイドを狙うだろう。その方が楽とも言える。だが敢えてそれをしなかったのは2人が斬り掛かる瞬間、左手を柄へと添えたからであった。

(あの剣、多分魔道具に近いな。左手を添えたのは、おそらく魔法を込めたんだろう。刀身の見た目に変化は無いが、魔法剣専用って所か。)

しっかりとした予測が出来れば、きちんと対応出来る。正にお手本のような対処に、双璧の2人は着いて行けなかった。


撃ち込まれた箇所を押さえ、苦悶の表情を浮かべる双璧。エレナとアスコットは、信じられない光景に驚愕している。

「嘘、でしょう?」
「真剣ならあの2人は死んでるぞ・・・。」


一方、ルークもまた驚愕していた。何故なら・・・

「凄い!弟子にしてくれ!!」
「フィーナの夫。あの子に頼めば弟子になれる!だからもう師匠!!」
「巫山戯んな!誰が師匠だ!!」


キラキラと瞳を輝かせる2人の変わり様に、驚く以外なかったのだから。