295話 合流
295話 合流
「ヒィィィ!」
「魔物はまだ復活していませんね・・・」
あまりの速さに悲鳴を上げるナディアと、呑気に周囲を観察するユキ。2人の反応があまりに対局なのは、そのまま各々の実力を表している。瞬間的にならば今のエアと同等かそれ以上の速度を出せるユキ。そして、まだまだ遠く及ばないナディア。
残るシュウはと言うと、周囲の観察は2人に任せて思考に耽っていた。
(・・・やはり竜王達の行動が気になるな。確かに筋は通っているが、オレ達を乗せる必要はない。寧ろ無関係を装うのであれば、乗せるべきじゃないのは明らかだ。正直乗せて貰って助かるけど・・・オレを遠ざけるのが目的だったのかもな)
シュウがそう思うのには訳がある。クリスタルドラゴンを51階層に捨てる。そう言った時、竜王達は明らかに動揺したのだ。その一瞬をシュウは見逃さなかった。だがその時は、捨てるという部分に反応したのだと思ったのである。
しかし、その後の会話が進む速度を考えると、色々と不自然に感じられる。楽をしたいという自分達の欲につけこむように、エアが話を運んだ気がしてならない。
今すぐ移動するなら乗せてやる。選択肢があるようで無い提案により、次の階層どころかボス部屋の調査すら出来なかった。まぁ、面倒を背負い込むのと天秤に掛け、面倒を回避する方が勝ったのだが。
(失敗した、かな?・・・いや、みんなの安全を考慮すると、関わるべきじゃないのは確かだ。居残ったアクアとアースが痕跡を消す可能性もあるが、消されても別に構わないしな。それに竜王達がオレを遠ざけたのだとしたら、それは2体目のクリスタルドラゴンが現れた場所じゃない。・・・51階層か)
ユキ達との会話の中で、ボス部屋の調査については一切触れていない。だからこそ竜王達が焦ったのだとすれば、それは51階層に関する事となる。
(オレが次に足を運べるのはおそらく数ヶ月後。痕跡は消されてるかもしれないが、それでも一度確認すべきだろうな。・・・ダンジョンだし)
場所がダンジョンである以上、竜王達であっても痕跡を消せるとは限らない。ダンジョン自体も内部に現れる魔物も、時間が経てば元に戻るのだから。心配なのはダンジョンそのものの消滅だが、それは前例が無いため大丈夫だろう。シュウはそう結論付けたのだった。
エアの背で3人が思い思いの行動をとっていると、不意にエアが声を掛けてきた。
「捉えたのじゃ。少し追い越した先に降ろすが構わぬか?」
「・・・いや。向こうも気付いたみたいだし、目の前で高度と速度を落としてくれ。」
「飛び降りるつもりか。わかったのじゃ。」
全速力で飛行しているとあって、現在のエアは力を隠したりしていない。そんな化物が背後から猛スピードで迫れば、駆け出しの冒険者であっても気が付く。違うのは気付いた後の対応である。フィーナ達は警戒を強め、即座に陣形を整えたのだ。シュウはその事に気付いた為、先回りする必要はないと判断した。
「ナディアよ・・・」
「な、何?」
ゆっくり挨拶する時間が無いと知り、エアはナディアに話し掛ける。最初は叫びっ放しだったナディアも、すっかり大人しくなっていた。そうでなければ返事をする余裕も無かっただろう。
「妾達は問題を片付けてからお主の下を尋ねる。暫く待っていて欲しいのじゃ。」
「わかったわ。もう急ぐ必要も無いし、慌てなくて大丈夫よ。」
「すまんのぉ。では暫しの別離じゃ!」
「えぇ!」
手短に別れの挨拶を済ませ、ナディアがエアの背から飛び降りる。その後を追いユキが礼を告げながら続く。最後に残ったのはシュウ。ユキと同じように礼だけ告げて飛び降りようとしたその時、急にエアが上昇する。
「乗せてくれて助かっ――!?」
「驚かせてすまぬ。お主に頼みがあっての・・・」
「頼み?」
「暫くの間、此処には近付かんで欲しいのじゃ。」
「・・・理由は?」
「妾だけで戻って来ると保証出来ん。もし気性の荒い者達が同行した場合、お主らのような強者がおっては揉めるかもしれん。」
「喧嘩を吹っ掛けられるという事か?」
「そうじゃ。周囲に被害が及ぶのは本意ではないじゃろ?」
基本的に、竜というのは非常に好戦的である。納得のいく説明だが、シュウはすぐに嘘だと見抜く。
「(余程オレには知られたくないって事か。いや、ナディアを巻き込みたくないだけかもな)・・・わかった。冒険者達には近付かないように言っておこう。」
「頼むのじゃ。」
「あぁ。じゃあな!」
「なっ!?・・・やれやれ。」
誰にも会話を聞かれぬよう、かなりの高度まで上昇している。突然そこから飛び降りたのだから、エアも驚く。だが空中戦を繰り広げた事を思い出し、すぐに落ち着きを取り戻す。
(すまぬ。お主らも無関係ではないかもしれんが、とりあえずは我らの問題じゃ。・・・とりあえず急ぐとするかのぉ)
無事にシュウが着地したのを見届け、エアは移動を再開したのだった。