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Shining Rhapsody

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260話 SSS級クエスト11

 260話 SSS級クエスト11

 

 

3日目。夜明け前から魔物を狩りまくるユキに反し、順調に進むフィーナ達。それもそのはず。全くと言って良いほど、魔物と遭遇しないのだから。ダンジョンは魔物を生み出すと言われているが、僅か1日で元通りになる物でもない。つまり、ユキの被害から復活していなかったのだ。そして前日よりもペースを上げた結果、昼前には15階層へと到達する。

 

一方のユキはと言うと、その姿は15階層の出口付近にあった。こちらも慣れにより、微妙にペースアップしたのである。しかし、同じ階層へと到達したフィーナ達が気付く事は無かった。昼食に時間が掛かるユキは、フィーナ達が到達するより早く食事にありついていたのだから。

 

ソロのユキは食事の際、完全に気配を殺している。そうなると、戦闘音が響き渡らない限り存在を察知するのは難しい。結局、お互いが同時に食事を終えて移動を再開する。そしておよそ1時間後。出口付近に辿り着いたフィーナ達が立ち止まる。

 

「みんな待って!」

「ルークのゴハンの匂いがする!」

「「「「「っ!?」」」」」

 

ルークが使う珍しい調味料の香りに、同時に反応したのはソルトとブラスカ。2人は熊の獣人である。犬よりも優れた嗅覚を持つ熊だけに、誰よりも早く反応したのだ。そしてある程度の距離まで近付くと、他の獣人達も匂いを感じ取る。そこからはあっという間であった。

 

「此処だな。」

「野営の跡ね。」

「焚き火の規模から考えると少人数。しかもまだ温かいな・・・。」

「急げば追い付けるんじゃねぇか?」

 

未だ燻っている焚き火に、多くの者達が同じ思いを抱く。しかしどうにも腑に落ちないのが育ての親達。

 

「ねぇ?どう思う?」

「ペース配分がデタラメ過ぎる。おそらく魔物を狩り尽くしているんだろうな。」

「ここまでの階層だと飛行する魔物・・・鳥よね?」

「あっ・・・。」

 

鳥と言われ、声を上げたのはフィーナ。ユキが何に執着していたのか、瞬時に理解出来たのは過去の体験があったから。全員に視線を向けられ、フィーナが理由を説明する。

 

「多分ユキは卵を集めていたんだと思うわ。」

「「「「「卵?」」」」」

「えぇ。ルークが作る料理の中でも、卵を使った物は特に美味しいのよ。」

「「「「「あぁ・・・」」」」」

 

言われた事で、誰もがルークの料理を思い出す。特に女性陣の反応は大きかった。が、今はそれどころではない。逸る気持ちを抑えられず、アレンが声を上げる。

 

「だったら、今なら追い付けるんじゃねぇか?」

「それはどうかしら?」

「どういう意味だ?」

 

ユキが食材調達に夢中になっているなら、労せずして追い付けるのではないか。その考えに否定的なエレナに対し、アレンが理由を尋ねる。

 

「ここまでの傾向を考えると、5階層毎に変化するでしょ?そうなると、次からはまた大きく変化するはずよ。」

「そういう事か・・・。なら、さっさと次の階層を確認しようぜ?」

 

エレナの言葉の意味を理解し、ならばさっさと答えを出そうと考えるのも当然だろう。全員が顔を見合わせ、足早に16階層へと向かう。そこに待ち受けていたのは、正に絶望とも言える光景であった。

 

「なぁ?」

「・・・何よ?」

「アレ・・・食えると思うか?」

「馬鹿な事言ってないで行くわよ!」

 

サラとリューによって夫婦漫才を見せられた者達の冷たい視線に耐えかねたのか、サラが声を荒げて先を促す。彼らが見た物、それは墓場を彷徨くゾンビやスケルトンの群れであった。

 

つい先程までは獣人に産まれた事に感謝した者達。だが今はそれを後悔するばかり。鼻が曲がりそうな程に強烈な臭いを受ければ、そう思うのも当然だろう。

 

別の意味で先を急ぐ事にしたフィーナ達。そこから遡ること約1時間。そこには追われている自覚の無いユキの姿があった。

 

 

 

「鳥さんは充分だし、次は牛さんがいいな〜。」

 

買い物に出掛けている主婦の如く、呑気に歩くユキ。だが16階層に足を踏み入れた瞬間、シュウですらほとんど聞いた事の無い悲鳴を上げる。

 

「でもバランスを考えると豚さんも捨てがたい・・・うげっ!」

 

ユキの言うバランスとは肉の種類であって、栄養価は一切考慮されていない。しかしツッコミ役不在の為、ユキの暴走は止まらない。

 

「何なのよ!もう!!お肉は腐りかけが美味しいの!アナタなんて賞味期限切れじゃない!!」

 

もしもシュウが居れば確実にツッコんでいただろう。賞味期限内ならば食うのか、と。幾ら食いしん坊のユキであっても、人型の魔物を食す趣味は無い。だが言わずにはいられなかったのだ。

 

食えるかどうかで素材の価値が決まる訳では無いのだが、ユキにとっては食えるかどうかで価値が決まる。つまり、食えない魔物は全くの無価値。そうである以上、20階層までは留まる必要性を感じなかった。

 

そうなった場合、ユキがどのような行動に出るのかは察しの通り。文字通り、目にも止まらぬ速さで駆け抜けたのだ。それこそ、カレンやシュウが驚く程の速度で。おまけに幸か不幸か、迷うような階層ではない。

 

エレナ達が全力で1時間を切るかどうかという階層を、ユキは10分足らずで駆け抜けてしまったのだ。一切の戦闘をする事なく。

 

 

こうして再び開いた差に気付く事なく、フィーナ達は懸命にユキを追い掛けるのだった。