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Shining Rhapsody

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306話 臨時総会1

 306話 臨時総会1

 

 

翌日――早朝にも関わらず、各国の代表が一同に介していた。本来ならば昼過ぎに行われる会合なのだが、一刻も早い対応を迫られた者達の思惑によるものである。・・・ある一国を除いて。

 

 

「遅い!まだ来んのか!!」

「ラカムス王よ、まだ時間にはなっておらんぞ?」

「・・・チッ!」

 

未だに姿を見せない国の代表に苛立ちを隠せず、叫んだのはミーニッツ共和国の国王ラカムス。それを窘めたのはカイル国王。ラカムス国王は時刻を確認し、それが事実とわかって舌打ちする以外になかった。

 

平時であれば、器の大小で片付けられる両者の対応も、今は違って見える。余裕の有る国と無い国。各国の代表者達の目にはそう写ったのか、静かに見守るだけであった。

 

 

重苦しい雰囲気の中、定められた刻限が迫る。これ以上は待っても無駄。そう判断した進行役が口を開いた。

 

「皆様!時間となりましたので、臨時総会を開催させて頂きます。」

「とは言ってものぉ・・・」

「議題となるべき人物がいないじゃないの・・・」

 

開会の宣言に対し、カイル王国の国王とベルクト王国の女王が苦言を呈する。

 

「では・・・待ちますか?」

「ふむ・・・。ならば半刻ほど待って、それでも来なければ解散するしかなかろう。」

「なっ!?我等に待てと言うのか!」

「ならばどうしろと言うのじゃ?」

「今すぐ決を採れば良いではないか!」

「・・・失礼ですが、何の決を採ろうとお考えなのです?」

 

カイル国王の提案に噛み付いたのは、またしてもラカムス国王。だが要領を得ない物言いに、進行役のマークが説明を求める。

 

「帝国への報復に決まっておる!」

「「「「「なっ!?」」」」」

 

あまりにも見当違いな発言に、誰もが驚きを顕にする。何の通告も無く取引を停止したが、それは罪に問われるような問題ではない。売る物が無く、且つ欲しい物が無いと言われればそれまで。取引とは自己の利益を追求してなんぼである。

 

今回の場合、各国が集まったのは陳情や抗議のため。人道的な側面からのことである。だと言うのに報復と口にしたラカムスが、事態を曲解しているのは明白だった。

 

だからこそ、公正中立であるべき進行役が質問するのは当然である。

 

「報復と言いますが、帝国が一体何をしたと言うのです?」

「罪もない民を苦しめているではないか!」

「それはお前の国の民だろう?」

「「「「「っ!?」」」」」

 

見当違いも甚だしい意見に、誰もが反論しようとしたその時。扉を開きながら、声を挟んで来た人物の姿があった。

 

「オレが取引を停止したのは、自国の民達を守るため。お前の国の民が苦しんでいるのは、お前が能無しだからだ。オレが責められる筋合いは無いな。」

「き、貴様ぁぁぁ!」

 

激昂するラカムス王の様子に笑みを浮かべるも、反省すべき点はあったと言葉を続ける。

 

「あぁ、遅れて来た事は悪かったと思ってるぞ?だが帝国には話し合うような議題も無いんでな。特に反省はしていない。」

「巫山戯るな!」

「別に巫山戯てなどいない。と言うか、何故呼ばれたのかもわからないんだ。文句を言いたいのは此方の方だろ?議題位は事前に説明して欲しいものだな。」

 

ルークが言うのも当然。実は今回、帝国側へは、内容に関する通達が一切無かったのだ。議題を言えば誰も来ない。そんな事は容易に想像出来たからである。

 

そしてルークがラカムス王を煽っているのはわざと。この男、まともに議論する気が無いのだ。ついでに言うと、遅れて来たのもわざとである。そんなルークの本心を理解出来る者は1人もいないが、帝国側の様子がおかしい事にはほとんどの者が気付く。

 

 

(((((従者がいない!? )))))

 

 

世界政府の総会は、一国から最大5名までの参加を許されている。そして例外なく、どの国も参加枠いっぱいで望むのだ。国家元首と護衛、宰相や外交官、または文官である。他国の提案や発言は、しっかりと吟味した上で判断を下さねばならない。上げ足を取られる訳にはいかないのだ。

 

にも関わらず、今回帝国の参加者はルークのみ。最低限、やり手のスフィアは同行するものと思っていた。そして人道的なスフィアであれば、強敵ではあるが情に訴える事が出来る。そんな打算も、出足から崩された格好だった。

 

 

普段から顔を見せず、何を考えているのかわからない皇帝。そんな彼は悠々と自らに割り当てられた席に向かう。そのまま椅子に腰を下ろし、首を傾げながら問い掛けた。

 

「で、さっきのがオレを呼び出した議題なのか?なら帰らせて貰うが?」

「ま、待って欲しい!今回の議題は違うのじゃ!!」

 

遅れて来て早々に帰る発言をしたルークに、慌ててカイル国王が呼び止めた。放っておいては帰りかねない。そう判断した進行役が説明する。

 

「今回皇帝陛下にお越し頂いたのは、各国から陳情が上がったためです。」

「陳情?」

「はい。突然の取引停止に、各国が困り果てているのです。そこで、食料だけでも取引を再開して頂けないかと・・・」

 

ルークに視線を向けられ、どういう訳か冷や汗が止まらず尻すぼみとなる進行役の発言。対するルークは、苛立ちを隠さずに反論する。議論の場で感情的になるのは愚かな行為だが、これも当然わざとである。

 

 

「婚約者達を攫われたんだ。明確な敵対行為だろ?・・・貴様は敵国に兵糧を送れと言うのか?」

「敵国とおっしゃいますが、未だ犯人の目星はついていないと伺っております。それとも皇帝陛下は、何れかの国が関わっていると確証を得ていらっしゃるのですか?」

「いいや、わからないな。」

「でしたら!」

「そもそも、我が国から再三協力を要請したはずだ。だが何の成果も上げられていないのは何故だ?国主導か、かなり上の人物の犯行なんじゃないか?」

「「「「「・・・・・。」」」」」

 

ルークの指摘に、誰もが沈黙を貫く。反論するのは容易だが、やってない事の証明は難しい。

 

「一体何者の、どの国の犯行かも定かではない。だからこそ、全ての国と等しく取引を停止したんだ。当然オレは、婚約者達が見付かるまで再開するつもりなどない!」

「じゃが!それでは多くの民達が犠牲となる!!」

 

善人と言うべきカイル国王が、真っ先にルークの情へ訴える。だがルークの反応は冷ややかだった。

 

「さっきから民達と言うが、真っ先に自分達が犠牲となるべきじゃないのか?」

「そ、それは・・・」

「貴様らの食料を分け与えて、この場に居る何人かが犠牲にでもなってみせろよ?そしたら考え直してやってもいいぞ。」

「「「「「・・・・・。」」」」」

 

 

特に仲が良い訳でもないが、カイル国王の事は知っている。民の事を考える、良き王だと。しかしながら彼もまた、生まれながらの王族である。自分達を犠牲にしてまで、民を救おうという発想が無かった。これにルークは怒ったのである。

 

補足しておくと、実はカイル王国はそこまで困窮していない。真っ先に地下農場に取り掛かったお陰で、何とかギリギリの線を保っていたのだ。リノア、クレア、エミリアの祖国はそれ以上に無事である。帝国に非は無いのだが、心配を掛けているお詫びとして秘密裏に食料取引を継続していたのだ。

 

 

ともあれ、お人好しのカイル国王によって、その他の国々も追い込まれようとしていた。