307話 臨時総会2
307話 臨時総会2
各国の代表が答える事の出来ぬまま、悪戯に時間ばかりが過ぎ去るかに思われた。しかし沈黙を破ったのは、何かと噛み付いて来るラカムス王。
「巫山戯るな!貴族が平民の為に犠牲となれるはずがないだろう!!寧ろ逆ではないか!」
「・・・平民が貴族の犠牲になれと?」
「そうじゃ!」
「だったらそう国民に言えばいい。解決策も見つかったみたいだし、オレは帰らせて貰うぞ?」
「なっ!?」
話は終わったとばかりに立ち上がったルーク。そのまま出口へ向かって歩き出すのだが、当然各国が納得出来るはずもない。
「待って頂戴!」
「・・・ベルクトの女王。まだ何か?」
「今のは一国の意見よ!各国の総意ではないわ!!」
ルークが立ち止まって視線を向けた相手は、ベルクト王国の女王アナスタシア。彼女の言い分に対し、またしても冷たく言い放つ。
「別に何処の国が何を言おうと、オレの意見は変わらん。他国の事情など知った事か!」
「人々が苦しんでいると言うのに、貴方は何も感じないの!?」
「あぁ。他国の民がどうなろうと構わないな。」
「なっ・・・人としての情も無いと言うの!?」
「おかしな事を言う。あるから犯人を追い込もうとしてるんだろ?とびきりの愛情が、な。」
「そん、な・・・」
アナスタシアが言うように、非情であればリノア達の為に、ここまで事を荒げる必要などない。ルークはそう言っているのだ。だからこそ、彼女はそれ以上言い返す事が出来なかった。そしてここまではルークの脚本通り。当然その先も描かれている。
「そもそも暗殺者まで差し向けられているんだ。徹底的に戦わせて貰うぞ。」
「「「「「っ!?」」」」」
暗殺者に関する情報など知らなかった者達が驚きの表情を浮かべる。国家元首の暗殺ともなると、それは宣戦布告と同義。ここまで聞かされた上でルークの説得に乗り出そうものなら、自分が関わっていますと言っているようなものだ。故に誰一人として、真っ向から反論する事が出来ない。
この展開となれば、あとはルークの思うがまま。どれだけ好き勝手言おうとも、表立って止める事が出来ないのだ。
「おっと、戦おうにも敵の所在が不明なままだった。そうだな・・・丁度良い機会だ。虱潰しに当たってみるか。」
「「「「「?」」」」」
「フォレスタニア帝国は、全ての国に対し宣戦布告する!」
「「「「「っ!?」」」」」
「我が婚約者達全員の保護及び犯人を討ち取るまで、一切の交渉に応じるつもりは無い!帝国と・・・オレと敵対した事を悔やみながら死に絶えるがいい!!」
「「「「「なっ!?」」」」」
ルークの発言に誰もが愕然とする。好戦的だった旧アルカイル帝国ですら、全ての国を相手取った記録はない。正に前代未聞である。
実はここまでルークの描いた脚本通り。ここから先も、カレンはルークの脚本通りに演じる予定・・・だった。本来ならば、黒幕が居るであろう都市の城壁を破壊し、住民の危機感を煽って犯人探しを加速させようと考えていた。
だがこの脚本家はこの土壇場で、更には独断で結末を書き換えたのだ。まだ舞台最後の幕が上がっていない事もあって、演者は演技の修正が可能。・・・素直に納得出来れば、の話ではあるが。
「ルークよ!我が国は無関係じゃぞ!!」
「知るか。無関係かどうかはオレが決める。」
「な、なんじゃと!?馬鹿な・・・」
「一体どれ程の人間が犠牲になると思っているの!」
ルークとは良好な関係だと考えていたカイル国王が動揺のあまり、皇帝の名を呼び捨てて無実を訴える。だがそれをルークはバッサリと斬り捨てる。みるみる顔が青ざめるカイル国王の様子を伺い、今度はアナスタシア女王が口を開く。だがルークの対応は変わらない。
「そんなのは貴様ら王族や貴族次第だろ?安全な場所に隠れてる奴らが、命を惜しむ分だけ犠牲が増える。それが嫌なら、自ら進んで首を差し出す以外にないな。」
「出来る訳がないでしょう!」
「なら、自分達の犠牲となって死にゆく者達に、謝罪と感謝をしながら自分の番を待つことだな。多少順番が入れ替わるだけだ、大した問題じゃない。」
「そんな・・・」
罪の有無など関係ない。そんなルークの態度に絶望する。侵略などではなく殲滅。そう理解するには充分なやり取りであった。だが、物分りの良い者達ばかりが集まった訳でもない。
「くくく、ははははは!本性を現したな!!」
「・・・本性?」
「そうだ!戦争する口実が欲しかっただけじゃろう!!そもそも全ての国を同時に相手取るなど、出来もせん事をほざくでないわ!」
「・・・・・。」
ここまで丁寧に説明したと言うのに、一体どう解釈したのだろう。理解が追い付かず首を傾げるルークに、盛大な勘違いをするラカムス国王。何の反応も返さないルークの様子に、図星だったのだろうと決め付け捲し立てる。
「軍事力の落ちた今の帝国など恐ろしくもない!返り討ちにしてくれるわ!!そうそう、貴様の妻達は儂が貰ってやろう。かわいがってやるから安心しろ!わははははは!!」
ルークによって大量の兵を失った帝国の軍事力は、誰がどう見ても最盛期の半分以下まで落ち込んでいる。だからこそ戦争になっても勝てる。ラカムスはそう考えていた。そこまでは良かったのだが、調子に乗った彼は絶対に言ってはならない一言を発してしまった。
ルークがラカムスの背後に視線を移せば、護衛や重鎮と思しき者達がニタニタと笑みを浮かべている。
「犠牲は最小限に抑える予定だったが・・・気が変わった。名ばかりの共和国には、さっさと消えて貰うとしよう。」
「何?」
本来は君主が存在しない国家が共和国である。にも関わらず国王が居るため、名ばかりの共和国と告げたのだ。この辺はスフィアに歴史的背景などの説明を受けている。過去には首相が国家元首となっていたのだが、強大な権力を持った人物が強引に国王の座に着いてしまった。それがミーニッツという国である。
「今から誘拐に加担した者達が居るであろう、学園都市を滅ぼす。その次は貴様の居る王都だ。楽しみにしてるんだな。」
「何だと!?」
声を荒げる事無く、淡々と告げたルーク。聞き返そうとするラカムスを無視し、ルークはその場から転移魔法で消え去った。神の怒りを買った国の末路など、語るまでもないだろう。