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Shining Rhapsody

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313話 侵攻1

 313話 侵攻1

 

 

園都市に起こった異変に、いち早く気付いたのは防壁の上に居た兵士達。

 

「おい!あれは何だ!?」

「・・・人?」

「どうやって外に出たんだ?」

 

平野を闊歩する、人らしき者の姿。どの街も門を硬く閉ざしたままの現在、人が歩いているのは奇妙な光景だった。スタンピード直後は周辺の村から逃げ延びた者達で溢れ返ってはいたのだが、今は落ち着いている。冒険者達にも手が負えないとわかると、態々防壁の外へ出ようとする者は居なくなったからだ。

 

「・・・おい、立ち止まったぞ?」

「ひょっとして、歩き疲れたんじゃないか?」

「とにかく隊長に報告して、誰か向かわせた方がいいんじゃないか?」

 

自分達の手に負えない案件と判断し、兵士の1人が上司の下へと駆け出す。後で責任を負わされるくらいなら、些細な事でも押し付けてしまうのが正解である。自分で判断も出来ないのかと叱責される事もあるのだが、判断と責任は別物。その辺を理解していない上司がいるのは、どの世界でも同じなのだ。

 

上司の判断を仰ぎ、戻って来るまでの数分。残された兵士達は、避難民と思しき者へと視線を戻す。状況に変化があった場合、報告しなければならないのだ。そして彼らは、想定外の事態に直面する。

 

「火球!?」

「魔法か!?」

 

その人物が生み出したとしか思えない無数の火球が、その者の周囲に浮かび上がっていたのだ。だが彼らにとっての想定外は続く。何しろ、その火球をどうするのかがわからない。放つべき的や魔物の姿は見られない。

 

「・・・魔法の練習か?」

「いや、オレ達に向けた合図だろ。」

 

非常事態に外へ出て魔法の練習をする命知らずは居ない。ならば、ここに人が居るぞという精一杯のアピール。そう考えたのである。

 

だがそれは、次の行動によって否定される。

 

「お、おい!?」

「防壁に!?」

 

兵士達が驚くのも無理はない。何故なら、火球を防壁に向けて撃ち放ったのだ。子供でも知っているが、防壁を傷つけようとするのは明確な敵対行為。例えどのような理由があろうと、決して行ってはならない。

 

「どうする?今すぐ捕まえに行くか?」

「いや、只の火球だ。それよりも隊長の判断を仰ごう。」

 

こういう場合は捕らえてから判断を仰ぐべきなのだが、彼らも命は惜しい。少人数で向かっても返り討ちに合う可能性があるし、魔物が現れないという保証も無い。だからこそ、大勢の兵士を動かせる隊長の下へと駆け出したのだった。

 

 

それから数分後―――近くまで来ていた隊長と合流を果たし、兵達は防壁の上へと戻って来た。

 

「隊長!あちらです!!」

「あれか・・・」

「どうしますか!?」

 

只ならぬ光景に、腕を組み顔を顰める隊長。何故なら彼もそれなりの実力者。相手の実力は推し量れずとも、只者でない事はわかる。

 

「お前達・・・辺境伯と学園長に報告を頼む。」

「「「はっ!」」」

 

1人ずつで良いのだが、何故か3人が元気良く答えて猛ダッシュする。貴族の屋敷にはメイドさんが居るし、学園には女子生徒が居る。どちらも日頃は目にする機会の無い相手。彼らも若い男であった。

 

そんなニヤケ顔で走り去る3人を見て、険しい表情を浮かべたのは隊長のすぐ後ろに控えていた女性兵士。

 

「隊長っ!よろしいのですか!?」

「ん?・・・あぁ、多目に見てやれ。」

「しかし!」

「どうせ見てる事しか出来ないんだ。1人くらい居なくなっても影響は無い。そんな事より副隊長・・・アレがわかるか?」

「アレとは、あの者の事ですか?先程から初級魔法のファイアーボールを放っているようですが・・・」

 

副隊長と呼ばれた女性兵士は、困惑気味に視線を移す。どうやら彼女には、単なる初級魔法を放つだけの愚か者にしか見えなかったようだ。

 

「真上に居れば良くわかったのだろうが、先程から火球を全く同じ場所に命中させているんだ。」

「っ!?」

 

隊長から告げられた事実に、事態を飲み込めた副隊長が驚愕する。

 

「どういう意図かは理解出来ないが、やってる事は理解出来るだろ?」

「あの距離で・・・」

 

本来、数十メートルの距離で火球を的に連続して当てられる者は多い。だがそれが百メートルとなると、その割合は激減してしまう。五百メートルともなれば、バケモノと呼ばれるほんのひと握り。その倍の距離なのだから、只者ではないと思うほかない。

 

尤も、そこまでの距離から狙う程の実力者なら、もっと威力の高い魔法を放つだろう。どう考えても、その方が効率は良い。

 

「単に遠距離狙撃が得意なだけとも考えられるが、オレの願望で指示を出す訳にもいかん。」

「そう、ですね。万が一Sランク冒険者だった場合、我々の手に余るかもしれません。」

「・・・Sランクで済めばいいんだがな。」

「え?」

 

隊長の呟きが小さかった為、副隊長は聞き取れなかった。彼女が聞き返すも、その後隊長が口を開く事は無かった。

 

 

最初の目撃から30分が経過した頃、報告に向かっていた兵達が揃って帰還した。彼らに気付いた副隊長が、どのような指示を受けたのかを問い質そうとする。しかし、彼らの背後に居る人物に気が付き言葉を飲み込んだ。

 

辺境伯様・・・それに学園長まで。態々ご足労頂き、誠に申し訳ありません。」

「うむ。それで、敵対行動を取っている愚か者というのは・・・あれか。ふん!たかが火球如きで防壁をどうにか出来るはずもないと言うのに。あの馬鹿をさっさと捕らえるがよい!」

 

辺境伯の姿に気付いた隊長が呼び掛けるが、その横に幼女の姿がある事に気付き送れて声を掛ける。一方の呼び出された辺境伯は、敵対行動を取る者の姿を捉えて蔑む。すぐさま捕縛命令を出すのだが、それに待ったを掛ける声が上がる。

 

「よいしょ・・・おぉ、見えた見えた。ん?・・・ルーク!?」

「なんだ、ローナの知り合いか?」

 

小柄な学園長では防壁が邪魔で見えなかったのだろう。防壁によじ登り、件の人物の姿を捉える。驚異的な視力の持ち主だったのか、学園長には相手の顔が視認出来た。出来てしまった。思わず名前を叫んだ為、辺境伯が問い掛ける。そして学園長の口から飛び出た言葉により、彼らは言葉を失うのだ。

 

「皇帝じゃ!フォレスタニア皇帝陛下じゃよ!!」

「「「「「っ!?」」」」」

 

 

SランクどころかSSSランクの出現に、彼らは呆然となる。単独で国を滅ぼせると噂されている人物を、一都市の戦力でどうにか出来るはずがなかったからだ。この日、この場に居合わせた者は皆、人生で最も思考をフル回転させるのだった。