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Shining Rhapsody

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322話 侵攻10

 322話 侵攻10

 

 

カレンが忍び寄ろうとしている頃、ルークは兵士達が普段立ち入れない場所に居た。

 

「傭兵達が集まるまでに、さっさと見つけ出すとするか。」

 

今立っている防壁のすぐ内側は貴族街。恐らくは存在するであろう、秘密の出口を探し出そうというのである。だが当然、何のヒントも無い。目撃者も居ないのだから、まずは目で見るしかない。

 

「・・・まぁ、衛兵や門番の詰め所みたいな、わかり易い物は無いよな。だが、それに近い物は何処かに無いとおかしいはず。とは言っても・・・」

 

複数の貴族が関わっているとしても、それぞれが勝手に開閉しているとも思えない。何処かに管理している者達が待機する場所があるはず。そう思って周囲を見回すが、目の前には幾つもの邸宅が広がっていた。

 

「学園都市って呼ぶくらいだから、学園に通う、或いは以前通っていた貴族達の屋敷が乱立している訳だ。事前情報も無しにこの中からピンポイントで見つけ出すのは流石にな・・・」

 

園都市に居を構える貴族だけでなく、別邸を持つ者達も多い。それ以外にも有力な商人の屋敷もあり、無人という事もない。当主は不在でも、管理する者達が暮らしている。篩にかけようにも、その条件が難しいのだ。

 

 

「防壁に面した屋敷だろうとは思うけど、あまり先入観に囚われるのもなぁ。それにオレは管理してる奴を見つけるのが目的でもない。となると・・・刺激でも与えてみるか?」

 

犯人探しを目的としていないルークの選択は、防壁への攻撃。魔法か魔道具で隠蔽されているのだから、ある程度の衝撃を与えれば何らかの反応があるはず。そう判断したのだ。

 

犯人を探す事が目的ではない。ならばルークの目的が何かと言えば、答えは防壁の部分破壊。隠された門を壊すついでに、その周囲の防壁も破壊しようと言うのである。当初の予定では、学園都市を取り囲む防壁の半分以上を破壊してやるつもりだった。

 

しかし1時間後には多くの冒険者や傭兵、辺境伯の私兵を始末する予定である。そうなれば、この都市の防衛力は激減する。数日で塞げない程度の穴さえ開けば、魔物の驚異に晒されるのは明らかだった。

 

「さて、どう刺激を与えるべきかな?それ以前に、どうやって隠蔽しているのかが問題か。兵士が外から確認しても見つからないって事は、門は防壁と同じ素材・・・いや、それは無理があるか。余程大人数でないと開けられないよな。」

 

巨大な岩で作られた門。それを想像するも、すぐに自身で否定する。そんなに重い門となると、開閉に携わる人員は相当なものだろう。目立って仕方ない。しかもそんな重量物が動けば地面に痕跡が残る。それを消すのも一苦労なはずだ。現実的とは言えないだろう。

 

「なら普通の門で、魔法か魔道具で見た目を誤魔化してるのか?けど、兵士達も触ったり叩いたりしながら確認したはずだから、視覚だけでなく触覚や聴覚も誤魔化す事になる。そんな魔道具なんて聞いた事も無いし、兵士達ならその可能性も考慮してるはずだ。・・・待て、兵士に囚われ過ぎだ。見方を変えてみよう。・・・・・門じゃない、とか?」

 

つい先程自分で呟いた言葉を思い出し、事前の推測を全て思考の片隅に追いやる。そこから新たに導き出された別の考え。それは余りにも単純明快なものだった。

 

「地下通路か!」

 

思い付いてしまえばあとは早い。貴族の屋敷から直接外に繋がる通路があるのだろう。そして見付かる恐れがある事から、出口は防壁からある程度の距離をとっているはず。しかし周囲に何も無い場所では、魔物や冒険者に見付かる可能性がある。

 

「絶対に見つからない、いや、見つかっても問題の無い場所。相当大掛かりだけど、時間と金があれば作れる。貴族子飼いの暗殺者なんかが暮らす村、つまり隠れ里!」

 

 

やっと全てが繋がった。そう考えたルークだが、ここで新たな問題に直面する。

 

「だが、どうやって探すかって話だよな。暗殺者・・・帝国の城内に忍び込めるような者達を育て上げるのを考えると、地下通路が作られたのは最近の話じゃないはず。数十年、もしくは数百年単位。それだけ長く続いてる、有力な貴族。それは・・・・・知るか!」

 

問題は無事に解けた。しかし肝心の答えは得られなかった。生まれながらの貴族にして、余程勤勉でもない限り、他の貴族の歴史までは学んだりしない。ルークに至っては、貴族どころか王族についての知識も怪しいのである。結論――

 

「今晩スフィアに聞こう!」

 

カレンが聞いていればズッコケたであろう結論も、今は誰の耳にも届かない。

 

 

「さて、リノア達も明日には見つけられるだろうし、この辺を壊してあの兵達の所へ行くとするか。」

 

強引に予定を修正し、ルークは貴族街へと降り立つ。何一つ予定通りに進んでいないのだが、この男が気にする様子はなかった。まぁ日本における観光でもない限り、予定通りに進むのは稀である。

 

 

「ただ壊すだけじゃ、残骸を拾って応急修理されちまいそうだよな。なら・・・」

 

防壁の破壊と言っても、衝撃を加えただけでは積み重ねられた全ての岩が粉々になる訳ではない。中には真っ二つに割れる物や、角が欠ける程度で済む物もあるだろう。故にルークは信じられない行動に出た。

 

「ふぅ・・・はっ!」

 

――ドンッ!

 

繰り出されたのは、見た目には何の工夫も無い正拳突き。だが当然、その拳には魔力を纏っている。ついでに言えば、拳と同時に魔力も繰り出していた。極限まで力を抑えた魔拳と魔弾である。しかしその魔力は一箇所に集中しておらず、寧ろ広範囲に広がっている。防壁の岩を破壊する為ではなく、吹き飛ばす事を目的とした一撃だった。

 

 

何重にも重なった防壁の岩。与えられた衝撃は密接した岩を伝わり、瞬時に最外周の岩へと到達。さながらビリヤードのように、勢い良く飛び出すのだった。その音を聞き、ルークは思わず顔を顰める。

 

「・・・失敗か。でもこれ以上の威力だと、流石にぶっ壊れるよな?」

 

数トンの大岩が十数メートル吹き飛んでいるのだが、ルークとしては不満しかない。近くに転がしておけば、住人達の手によって運び込まれてしまうだろう。だがもっと飛ばそうとすれば、その前に砕けてしまうかもしれない。もっとも簡単な解決法は、純粋に放り投げる事である。

 

「大岩を担いでぶん投げるとか、常識の有る大人のする事じゃないよなぁ・・・」

 

一体どの口が言うのだろう。そんな馬鹿げた事を口にしながら、ルークは他の方法を模索する、と思われたのだが――

 

「う〜ん・・・こんなので悩むのも馬鹿らしいし、諦めて壊すか。」

 

随分あっさりとした、思考の放棄。防壁の岩を綺麗に吹き飛ばしたところで、誰が得をする訳でもない。いずれ復元しようとでも思わない限り、吹き飛ばすのも粉々にするのも大差無いのだ。

 

「と言うわけで、ほいっ。」

 

――コツン

 

頭の高さにある岩に向かい、まるでノックするかのように裏拳を繰り出すと――

 

――ズドォォォン!

 

およそ20メートルに渡り、幾重にも積み重ねられた防壁の岩が粉々に砕け散る。目の前に広がる開放的な景色に満足したルークは、その場を後にするのだった。