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Shining Rhapsody

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331話 侵攻19

 331話 侵攻19

 

 

視線で制止されたように感じたカレンが問い掛ける。

 

「止められた気がしたのですが、私の勘違いでしょうか?」

「いいえ、勘違いではありませんよ。」

「では・・・どういうつもりです?」

 

一刻も早く情報を伝えなければルークが危険かもしれない。だと言うのに、ティナが待ったを掛ける意図がわからない。

 

「情報伝達は迅速である程効果的ではありますが、不完全では意味がありません。寧ろ逆効果です。」

「不完全とは?」

「仮に魔法や真道具を封じられたとして、兵数で勝っていた旧帝国軍が及び腰だった事の説明になるでしょうか?」

「確かにティナさんの言う通りですね・・・」

 

ティナの意見にスフィアが同意する。敵の魔法や真道具を封じ、自分達は自由に使える。もしそうなら理解出来る。しかし学園長の説明では、自分達も使えないのではないか。そう捉えられるのだ。その根拠をスフィアが続けて説明する。

 

「私は先程『魔法を使えないルークに投石や弓矢で集中攻撃』と言いました。これは相手も同じ条件という仮定の上での発言です。そして学園長も肯定しましたが・・・少し躊躇いがちだったでしょうか。」

「私もそう思いました。ですからこの場合、正しいですがそれだけではない、と考えるのが適切ではありませんか?きちんと確認してからの方が良いですし、まだ聞いていない秘密があるかもしれません。」

「そう言われると・・・」

 

ティナの意見に、カレンは少し早計だったと思い始める。そこへ畳み掛けるようにティナが補足する。

 

「それに駆け付けたカレンさんまでもが窮地に立たされては意味がありません。向こうの状況によっては、ルークの足を引っ張る恐れもあります。今回ルークは油断も慢心もせず、全力で真正面から向かいました。言うならば、本気のカレンさんが向かったようなものです。心配し過ぎだと思いますよ?きちんと情報を整理してからでも遅くはない。そうは思いませんか?」

「・・・ティナの言う通りかもしれませんね。」

 

カレンが向かったようなもの。つまりルークが窮地に立たされていたなら、応援に向かったカレンも窮地に立たされる恐れがある。カレンとしても自身に置き換えてみれば過保護に思うし、場合によっては邪魔に感じるかもしれない。そう考えたからこそ、否定は出来なかった。

 

「確認すべき事はまだ有ります。先程、大規模な設置型の魔道具とおっしゃいましたが、それが有るのは学園都市のお話ですよね?王都にも有るという事ですか?それとも国全体を覆い尽くす程の代物でしょうか?」

「流石に幾つも有る訳ではないし、当然そこまで広範囲に及ぶ威力の魔道具は存在せん。」

「では、学園都市から遠く離れた位置にまで効果が届くような魔道具だと?」

「違う。設置した場所を中心にして、そうじゃな・・・王都よりも少し広い範囲を覆うと言った所じゃろう。」

「「「「「?」」」」」

 

誰にでもわかる程の明らかな矛盾。元々は学園都市が安全だという根拠についての説明だった。つまり複数存在しないと言う以上、その魔道具は学園都市になければならない。だと言うのに、何故王都が出て来るのか。その理由はある意味衝撃的なものであった。

 

「・・・はぁ。愚かな王というのは、何も今に限った話ではない。長く続けば、それなりに現れるものなんじゃよ。」

「えぇと、つまり・・・過去の王が無理やり持ち出した、と?」

「「「「「え?」」」」」

「そう聞いておる。」

「問題ではありませんか?」

「大問題じゃな。私の首ひとつで済めば良いのじゃが・・・」

 

ティナの言葉に誰もが耳を疑う。世界中の王侯貴族が集う学園都市。彼らの安全確保の為に用意されたはずの魔道具を、愚王が勝手に持ち出したと言うのだ。この話が公になれば大問題。関係者の糾弾は免れないし、場合によっては戦争である。下手をすれば学園関係者も処罰の対象となるだろう。だがこれを否定するのは意外な人物だった。

 

「いえ、その辺りはどうとでも言い逃れ出来るでしょう。」

「・・・何じゃと?」

「私は通いませんでしたが、それでも貴族の子息を預ける以上はしっかりと学園都市についても調べました。過去の記録や文献にも全て目を通していますが、そのような記録は見た覚えがありません。つまり学園都市の魔道具がどうなろうと、公的に責める事は出来ないという事です。」

「その通りじゃが・・・」

「旧ミリス公国と帝国にそのような記録が無い以上、その魔道具が問題になる事はないはずです。まぁ、その他の国に無いとは言い切れませから、学園都市の記録を調べてみないと断定は出来ません。ただ言えるのは、王の力が及んだ事を勘案するに、責任の所在は学園そのものではなく都市の方でしょうね。」

 

学園そのものはミーニッツ共和国から独立している。どちらかと言うと、世界政府側だろう。そんな学園に対し、一国が強権を発動する事は出来ない。学園所有の魔道具を接収する事は不可能であるし、そんな事をすれば世界中を敵に回す。その事実を考慮した結果がスフィアの言である。

 

ホッと胸を撫で下ろす学園長だが、それも束の間の事。

 

「そういう事であれば、学園長が秘する理由にはなりませんね。取引には弱いでしょうか・・・。」

「っ!?」

「旧帝国軍が及び腰だった理由についてもお答え頂いておりません。」

「それは・・・」

 

スフィアに突き放され、ティナにまで追い打ちを掛けられる。洗いざらい打ち明けるのが取引条件でない以上、出来る限り情報を秘匿したい学園長。勝ち目は無いものの、スフィア1人ならば被害は抑えられる。ルビア不在の内に取引を終えてしまえば――そう考えていた学園長の誤算。

 

 

それはティナが、ここまでやり手だと知らなかった事だろう。