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Shining Rhapsody

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320話 侵攻8

 320話 侵攻8

 

 

エリド村へと転移したカレンは、再度スフィアを呼んで状況を説明する。

 

「大体わかりました。そうなると、明日からは首都を攻めるかもしれませんね。」

「学園都市ではなく?」

辺境伯、つまり領主を討ったのですから、必要以上の攻撃は虐殺となります。まぁ、剣を向けた冒険者達も生かしておかないでしょうが、そちらは処罰ですからね。本日中に済ますでしょう。」

「なるほど。でしたら明日は、首都を遠くから観察しておきます。」

「お手数をお掛けしますが、よろしくお願いしますね。」

 

カレンとスフィアが話し合って作戦を決めているのには理由がある。1つは、カレンが考えるよりも遥かに効率的だという事。もう1つは、ミーニッツ共和国に関する噂によるものだった。

 

「学園長が素直に話してくれれば、ここまで気を揉む必要も無いんですがね・・・」

「まぁ無理でしょうね。スフィアとルビアを相手にしては、口を噤む以外に方法は有りませんよ。」

 

そう言って2人は、離れた場所で1人項垂れる学園長へと視線を向ける。スフィア達はカレンが学園長を連れて来てすぐ、事情聴取を行った。そんな学園長の対応は黙秘であった。カレンが言うように、スフィアとルビアを相手にし、言葉での駆け引きは得策ではない。

 

下手に嘘をついたところですぐに見破られる。そればかりか、その嘘から切り崩されるのは目に見えていた。故に黙秘を貫いているのだ。

 

 

「ですがあの反応のお陰で、やはりあの国には何かがあると確信が持てました。」

「旧帝国が攻め倦ねるような何か、ですか・・・どのような物だと思います?」

SS冒険者に匹敵する程の実力者と考えていたのですが・・・ひょっとすると強力な魔道具なのかもしれません。」

「魔道具?」

 

スフィアの口から飛び出したのが予想外の言葉だったのか、カレンが首を傾げる。

 

「えぇ。エレナさん達にも聞きましたが、それ程の実力者が居るという話は聞いた事が無いそうです。となると、国宝の中に強力な魔道具があると考えるのが妥当です。」

「旧帝国が警戒するような魔道具ですか?神器級の?」

 

訝しげな表情を浮かべたカレンが聞き返す。もし神器を有する国があれば、その噂は瞬く間に広がっているだろう。だが、長く生きるカレンやエレナ達も耳にした事は無い。だがスフィアの口から告げられたのは、正直意外な言葉だった。

 

「神器とは少々異なるかと思います。私が言うのは使い捨ての魔道具ですから。」

「使い捨て?」

「はい。1度使えば壊れるような代物です。それ故に、常識では考えられないような威力となるのですが。」

「そんな魔道具があるのですか?」

「ありますよ?使い捨てだからこそ、噂にならないのですから。ルークやカレンさんが未だに侮られている理由もそれですし。」

「・・・はい?」

 

自分の耳を疑ったカレンが聞き返す。未だに馬鹿な真似をする者が跡を絶たない理由。それを知る機会が訪れるとは思っていなかったのだ。

 

「不思議に思って調べていたのですが、どうやらお二人は強力な魔道具を保有していると思われているようです。」

「・・・あぁ、そういう事ですか。」

「えぇ。使い捨ての魔道具ですから、派手に動けば後は恐るるに足らない。もう持っていないだろうと考える者が多いという事です。」

「その繰り返し、と・・・本当に愚かですね。」

 

強力だが、使えば失われる。そんな魔道具だからこそ、その数はそれ程多くない。そんな物を作れる者は限られるし、態々使い捨てとなるような道具を作ろうとは考えないのだ。すぐに壊れるのは欠陥品。そんな評判が出回るようでは、製作者としての名に傷がつく。オマケに危険な魔道具を作れば目を付けられる。だからこそ、今ではそんな魔道具を作る者が居ないのであった。

 

 

それに危険な物や強力な物は、見つけ次第国が厳重に保管してしまう。一個人が何個も持っているとは考えられなかった。それがカレンが何度もトラブルに見舞われるカラクリだったのである。カレンやルークの実力を知る者達にとって、それは本当に愚かな事だった。

 

「そういう訳で、今回の一件は起こるべくして起きたと言えます。ですが、今後は恐らく起こらないでしょうね。」

「ルークが世界中に宣戦布告したからですね?」

「そうです。どう考えても個人・・・一国が有するにしては、余りにも魔道具の数が多過ぎると気付くでしょうから。」

「ですが、そんな魔道具を私やルークが作れると思われませんか?」

「どちらにせよ、驚異である事に変わりはありませんよ。作れるのであれば、それも実力ですから。」

 

カレンの疑問に、スフィアは首を横に振る。使い捨てだろうと、仮に量産出来るとすれば驚異となる。

 

「何にせよ、今回の一件が終わってからの話ですね。」

「はい。それより今はあの国の事です。ルークが危険に晒されるのは避けなければなりません。その為にも、カレンさんにはお手数をお掛けしますが・・・」

「大丈夫です。気付かれないように見守りますから。」

「ありがとうございます。」

 

カレンの頼もしい一言に、スフィアが頭を下げる。陰ながら見守る事にした嫁達の気遣い、内助の功である。彼女達が心配する必要は無いのだが、ルークの本当の実力を知らないのだから仕方ないのだ。

 

「さて、私はそろそろ戻りますね。・・・あぁ、そうでした。言われた通りルークを夕飯に誘いましたが、よろしかったのですか?」

「何がです?」

 

思い出したように告げたカレンに対し、今度はスフィアが首を傾げる。

 

「ルークを呼んでしまっては、ルビアさん達が此処に居ると知られてしまいますよね?」

「その事でしたら問題ありませんよ。此方から時間を指定してしまえば、突然訪問される心配が無くなりますから。夕飯に誘われておきながら、昼食も一緒に摂ろうと考えますか?」

「・・・思いませんね。なるほど。」

「ですがルークの場合は、夕食を作らなければならないと考えるでしょう。ですからルビアさん達には昼食後、見つからない場所に身を隠して頂く予定です。」

「・・・・・。」

 

 

心理戦では敵いそうにないな。そう思ったカレンだったが、それを口にする事は無かった。