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Shining Rhapsody

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337話 侵攻25

 337話 侵攻25

 

 

一先ずの答えを導き出し、ルークは王城へと視線を向ける。敵兵を殲滅したのだから、次は王城である。邪魔する者はほぼ居ないだろう。住民や冒険者が立ちはだかる可能性はあるが、それも極一部のはず。普通は単独で軍を滅ぼすようなバケモノに近付いたりはしない。

 

最早のんびり歩いて向かっても良い程なのだが、ルークが向かう様子は無かった。

 

「あとは王城を落とすだけなんだが・・・その前に、残っている検証を済ませるとしようか」

 

残っている検証。それは他でも無い、ルークの魔力を封じている魔道具。更には王都に張り巡らされた結界のようなもの。どちらも滅多にお目にかかれる代物ではなさそうとあって、今の内に確かめておく必要がある。

 

「両方同時にってのは些か欲張りすぎだろうな。まずはコイツから行くか・・・」

 

右腕に視線を向けながら呟く。別に同時でも良さそうではあるが、相乗効果が無いとは言えない。恐らく試せるのは一度きりと予想し、順番に検証する事にした。

 

「いきなり全力ってのもなぁ・・・やっぱ半分か?いや、面倒だけど半分までは少しずつにしておくか」

 

実はこの半分には、ルークの抱える事情が加味されていた。未だルークは力を持て余しているのだが、数日を掛けて半分の魔力量までは何とかコントロール出来るようになっていた。だがそれを超えればどうなるかは保証出来ない。6割の力を込めるつもりが、いきなり9割の力を放ってしまう恐れがあるのだ。

 

そして矛盾する事に、ルークは現状の全力を把握していない。戦闘時でもないのに、全力で魔力を放つのは色々と迷惑が掛かる。何事かと人が集まるし、変な誤解を生みかねない。それに周辺の魔物が逃げ出せば、その先にある街や村が被害を被る可能性もある。だから半分というのも、本人の感覚頼りなどんぶり勘定だった。

 

「さて、まずは1割・・・2割・・・」

 

目と閉じて集中し、口に出しながら徐々に魔力を解放して行く。そうでもしないと、一気に魔力を解放してしまい兼ねなかった。そして魔力が3割を超えたあたりで異音が鳴り響く。

 

――バキッ!

 

「あっ・・・4割のちょっと手前か。これって母さんでも壊せないレベルだぞ」

 

魔力量では群を抜くエレナでも、力技では外せない。その事実に少しだけ驚く。それはつまり、魔力で無理やりどうにかする事の出来る者が居ない事を意味していた。しかしルークに慌てた様子は見られない。何故なら、物理的に破壊する事は出来そうだったからだ。

 

壊す際に怪我する恐れはあるが、そんなのは外してから治癒魔法で治る。最悪、手首を切り落としてしまえば容易に外せるだろう。それから治癒魔法でくっつければ良い。欠損を元通りにするのは限られた者にしか出来ないが、切れたモノを繋ぎ合わせるのは難しくない。

 

「ま、まぁ、強力な魔道具である以上、ほぼミスリル製だし・・・」

 

頑強さで言えば上位の金属にアダマンタイトやヒヒイロカネがあるのだが、ミスリルだって鉄よりは上。それに壊れたのは、魔力がミスリルに直接影響を与えたからではない。内部に埋め込まれた魔石が、ルークの魔力を抑え切れずに破裂したせいである。だが作るつもりは無いため、その辺りを検証しようとは思っていない。壊せれば良いのである。

 

大きな亀裂の入った腕輪を力ずくで引き千切り、アイテムボックスへと仕舞い込む。投げ捨てても良かったが、誰かに研究されても面倒なのと報告用にキープしたのだ。

 

 

「さて、次はあっちの大掛かりなヤツだけど・・・どうするかな」

 

王都を眺めながら呟く。パッと見た限り、効果的な検証法が思いつかない。たった今壊した魔道具と違い、あちらは魔力を霧散させる。すぐに思いつくのは、込める魔力を徐々に増やして魔法を放つというものだ。しかしこれには問題がある。

 

上手いこと結界のようなモノだけを破壊出来れば良い。しかし現実には、結界を破壊した魔法はそのまま王都へ直撃するだろう。仮に限界がルークのほぼ全力だった場合、王都は跡形も無く消し飛ぶ。立ちはだかる者には容赦しないが、それ以外の者もとなると流石に躊躇いがあった。

 

「やっぱ中に入って、魔力を高めてみるしかないか」

 

無駄だとは思うが、後の影響を考えると無難だろう。腕輪の方は魔力を封じる――つまり外から押さえ付ける代物。即ち、それを上回る力で跳ね除ければ良いだけのことだった。だが霧散するのでは、中途半端な力技が通用しないと思われる。暖簾に腕押し、柳に風である。

 

とは言うものの、魔道具である以上は限界があるはず。試してみる価値はあるだろう。そう考え、ルークは防壁の前へと移動する。防壁の上、もしくは内部まで行かないのは邪魔されるのを嫌ったため。

 

「・・・体の内側には作用しないみたいだな。あくまで大気中の魔力に限定されるわけだ。なら、今回は半分から行ってみるか」

 

火球が掻き消えた位置よりも奥に立ち、自身に変化が無い事を確認する。効果を限定する事で、威力を高めるのは良く使われる手段とあって納得する。これは結界内で敵兵が活動していた事から、ある程度は予想していた。

 

そして破壊した魔道具よりも大規模なのと効果の違いから、先程よりも魔力を高める。ひょっとしたらルークの全力でもダメかもしれない。そんな直感に従い、先程よりも魔力を解放するペースを上げるのだが――様々な者達にとって想定外の事態を引き起こすのだった。