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Shining Rhapsody

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324話 侵攻12

 324話 侵攻12

 

 

再びエリド村を訪れたカレンだったが、先程の体験を引き摺っていたせいで動き出すことが出来ない。そんなカレンの様子に気付いた者達が慌てて駆け寄る。

 

「カレンさん!?」

「カレン様、大丈夫ですか!?」

「・・・・・えぇ、すみません。もう大丈夫です。」

 

心配は要らない――そう告げるカレンだったが、説得力は皆無だった。

 

「ちょっと!すごい汗じゃない!!」

「何かあったのですか!?」

 

露出の少ないドレス姿とあって、全身がどのような状態なのかは窺い知る事が出来ない。しかし唯一露出している顔、額は汗でびっしょりだった。

 

「説明しますので、時間を頂けますか?」

「わ、わかりました。それでは――」

「いいえ、スフィア。これは皆さんにも聞いて頂くべきです。その上で、エレナ達に質問があります。」

「「?」」

 

カレンと共に場所を移そうとしたスフィアを制止し、全員を見回す。そしてエレナとティナに視線を向けた。自分達への質問に心当たりの無いエレナとティナが揃って首を傾げる。

 

カレンが本当に落ち着いたのであれば、場所を移して腰を落ち着けただろう。ついでに紅茶でも要求したはずだが、今のカレンにそんな余裕は無かった。その場で学園都市での出来事を説明する。

 

「――という事がありました。恐らく今ルークは政務を再開している事でしょう。」

「「「「「・・・・・。」」」」」

 

聞かされた状況を理解しようとしているせいか、すぐに口を開く者はいなかった。だからこそカレンは数秒待ってから持論を展開する。

 

「おそらく、今までルークは本気を出していませんでした。いいえ、本気ではあったのでしょうね・・・出せる範囲での。」

「「「「「はぁ!?」」」」」

「「「「「・・・・・。」」」」」

 

それはない。そう思った嫁達が揃って声を上げる。だがエリド村の者達は無言を貫く。

 

「その反応・・・やはりエレナ達は何か知っていますね?」

「は、はい。実は――」

 

エレナの口から告げられたのは、幼少の頃にルークへ施した封印の話。だがこれは珍しい事でもない。駆け出しや低ランク冒険者の多くが体験する、ありふれた訓練方法なのだ。何らかの手段で力を封じられた場合や疲労で体力や魔力が十全でない場合を想定し、一時的に施される封印。指導する側とされる側、双方が合意の上で行える契約の一種。非常に強力な分、どちらか一方の意思で解除が可能という代物だった。

 

本来であれば驚く事は無いのだが、使った相手が普通ではなかった。

 

「そのような訓練法が・・・」

「私も知りませんでした。」

 

冒険者ではないスフィアとカレンが目を見開く。だが納得行かなかったのは冒険者側。

 

「ちょっと待って。何で今、あんな『一時的な枷』の話が出て来るのよ?」

「そうね。大抵その日限りだもの。」

「何故です?」

 

ナディアとフィーナの言葉に、スフィアが問い掛ける。そして返って来たのは納得の行く答えだった。

 

「只でさえ弱い駆け出し冒険者の力が減少するのよ?ゴブリン、下手すればスライムにだって殺されるもの。そんな危険を犯す者は居ないわ。」

「大抵訓練が終われば解除するし、長くても次の依頼までね。ランクの低い冒険者は毎日依頼を受けるから、枷があると稼ぎに響くの。移動時間も増えるし、採取や討伐に掛かる時間も増える。オマケに素材を持ち帰る量も減るでしょ?」

「なるほど。ですが、ダンジョンに向かった時のルークにはその『一時的な枷』が施されていたと・・・何時の間に?」

 

スフィアの記憶する限り、そのような報告は一切受けていない。自分達の目を盗んで行うようなものでもないだろうし、単純な好奇心からの質問であった。だがその質問こそが核心を突くものである。

 

「ルークが訓練を初めてすぐ・・・5歳の時よ。」

「「はぁぁぁ!?」」

 

自信満々に解説したナディアとフィーナが大声を上げる。

 

「そんな状態でこの魔境を生き抜いて来たって言うの!?」

「子供が枷を嵌めた状態で暮らせる場所じゃないでしょ!」

「そう言われても・・・」

 

ナディアだけならともかく、フィーナにまで詰め寄られて困惑するエレナ。そんな彼女を救ったのは冷静なスフィアだった。

 

「ルークは健在なのですから、可能だったと理解するしかないでしょう。それよりも気になっていたのですが、枷と言うのはどの程度効力があるのです?お二人の反応から察するに3割程度・・・或いは半減ですか?」

「・・・7割減です。」

「「はぁ!?」

 

これが2度目とあって、エレナは簡潔にわかり易く説明した。だがどれだけわかり易く説明しようとも、説明される側の想定を大幅に上回ると理解は難しいらしい。リアクション芸人のような2人を放置し、難しい顔のカレンが呟いた。

 

「つまり7割増しと言う事ですか・・・」

「何か?」

「えぇ。ルークの強さは私を若干上回る程度だったはずなのですが、今日感じた限りではそれ以上だったもので・・・。」

「単純計算で2倍弱ですよね?」

「いえ、もっとです。少なく見積もっても私の5倍はあるような気がしました。」

「「「「「5倍!?」」」」」

 

1撃で都市を滅ぼすバケモノの5倍。そう言われて全員が驚いた。だがいまいちピンと来ていない者が問い掛ける。

 

「それはどの程度の事が出来るのでしょう?」

「そうですね・・・私の全力の1撃ならば帝都を滅ぼせますが、おそらくルークの全力の1撃は・・・帝国の領土全てを滅ぼすでしょうね。いえ、ひょっとすると隣国も巻き込むかもしれません。」

「・・・・・は?」

 

カレンの説明にポカーンとしたのはスフィアだけではない。他の者達も声は上げなかったが似たような表情だった。だがカレン以外は知らない。今の例えはカレンと同じ方法ならば、という注釈がつくことを。

 

 

(最低でも、ですけどね。ましてやルークの場合は禁呪がありますから、もしかすると大陸ごと滅ぼせるかもしれないのですが・・・意味のない仮定です。無駄に怖がらせる必要もありません、言わなくて良いでしょう)