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Shining Rhapsody

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334話 侵攻22

 334話 侵攻22

 

 

見ていられないような演技を続ける大根役者。彼は演技をしながら考え込んでいた。そんな事だから下手な演技に拍車が掛かるのだが、この場にそれを気にする者が居ないのは救いだったのだろう。考え事に集中するあまり、顔まで変になっているのだが。

 

「ウィンドカッター!ウィンドカッター!!ひ○ちカッター!!!」

 

(しかし、敵が引いた理由がわからないな。向こうの魔法無効化を解除して、遠距離攻撃するつもりか?いや、それだとオレに逃げられるだろ。あと考えられるのは・・・なるほど、そういう事か)

 

敵兵の中から抜け出し、ルークへ向かって歩み寄る者達の姿。相手が5人とあって、一騎打ちとは呼べない。だが確実にルークを始末するべく用意された実力者達なのだろう。敵が引いたのは、彼らの邪魔をしないようにという配慮からだったのだ。

 

(全身黒ずくめってのは如何にもだよな。腰に剣をぶら下げてる所からして、近接戦がメインって感じか。ん?あれはまさか・・・刀?)

 

近付くにつれハッキリとしてくる独特の形状。鞘に仕舞われているが、その鞘自体が反りを持っている。柄巻きも見えるし、鍔もしっかりとある。外観上は、日本刀と呼んで差し支えない代物だった。

 

(この世界で作刀出来るのはオレとランドルフさんだけのはず。ランドルフさんが教えたとも思えないが・・・ティナが持ってるからな。似たような物なら作れるか)

 

ルークが思ったように、ティナは隠し持っていない。随分前から堂々と腰に差しているのだ。実際に振るう姿を目撃した者も居るだろうから、似たような形状の剣を作製して貰った者も居るかもしれない。そう判断するしかなかった。それに、もし日本刀が出回ったとしても大した問題ではない。そこらの鍛冶師が作る日本刀より、ランドルフが打った剣の方が遥かに強靭なのだから。

 

(問題なのは、実力者が出来損ないの刀を持つのかという話だ。仮に日本刀と呼ぶべき代物だった場合、出処が何処かって事になるんだが・・・まずは確かめてから、だな!)

 

ルークが一先ずの結論を出すのと同時に、相手の1人が一気に距離を詰める。

 

――キン!

 

「「っ!?」」

 

ほぼ同時に抜刀しての鍔迫り合いとなる。この展開に互いが驚くのだが、考えている事は全く異なっていた。

 

(刃文!?それも数珠刃だと!?)

 

互いに動揺していた事で、ほぼ同時に距離を取る。唯一の違いは、相手が5人組だったという事だろう。ルークに斬り掛かった1人が動きを止め、呼吸を落ち着ける。だがルークにそんな余裕は無い。他の4人が順番に斬り掛かったのだ。

 

本来ならば全てを躱す所だが、今回ばかりは全ての太刀を受け止め弾き返す。

 

――キン!キン!キン!キン!

 

(全員数珠刃・・・。地鉄までは判別出来なかったが、コイツらが使ってるのは間違いなく日本刀。だが直刃じゃないって事は、少なくともランドルフさんは無関係!)

 

ルークが作る刀の刃文は基本的に直刃。他の刃文も出来なくはないのだが、最も美しいと思っているのが直刃なのだ。これはランドルフの意見とも一致していた。だからこそ、ルークとランドルフ以外の鍛冶師の作と言える。そこから導き出される1つの可能性。

 

(転生、或いは転移者が居る!)

 

ルークでは断定する事が出来ない。だが日本からやって来た者が居るのだけは間違いない。しかも鍛冶師である。アークが厳しく制限する中、その網を掻い潜ったというのは大問題である。誰の仕業であれ、無関係とは言い切れない。アークの方針に逆らう以上、味方でないのは明らかなのだから。

 

(だが捕らえて情報を得るのは・・・難しいだろうな)

 

この場が戦場でなければ、もっと敵兵の数が少なければ捕まえて尋問も出来ただろう。だが現状、敵兵から邪魔されずに尋問するなど不可能。エリド村へ連れ帰り、みんなの協力を得るというのも考えたのだが、自爆するような魔道具や危険な毒物を所持していないとも限らない。安全が保証されない以上、連れ帰る事は諦めるしかなかった。

 

(今回は刀の回収だけで満足するとしよう)

 

敵の鹵獲から武器の回収へと狙いを修正し、刀を構え直すのであった。

 

 

 

 

一方の5人組だが、全員が顔を隠しているため外から表情を窺い知る事は出来ない。だが彼らの動揺は、覆面の上からでも一目瞭然だった。

 

(・・・・・)

(斬れない!?)

(あれは刀!?)

(何故持っている!?)

(刃こぼれしただと!?)

 

最初に斬り掛かった人物は、他の者達よりも少しだけ立ち直る時間があった。その為、何を考えているのかは伺い知れないのだが、逆に他の4人は動揺を隠せずに居た。

 

それでも相当に訓練されているのだろう。不測の事態――この場合はルークが日本刀を所持していた事――に採るべき行動に移る。

 

2人が別々に逃走し、残る3人が逃げる1人とルークの間に割って入る。こうする事で、守るべき者の居ない方の1人を追い掛ければ挟撃が可能となる。最悪の場合でも、3人が庇った方の1人は逃げられるだろう。中々考えられている作戦だなと感心しつつ、ルークは瞬時に行動に移す。

 

――ヒュッ!

「「「っ!?」」」

 

ルークが放り投げた何かが、猛スピードで3人の間を通り過ぎる。誰も反応出来ない、それ程のスピードとタイミングだったのだ。

 

――ドスッ!

 

「ぐふっ!」

「「「なっ!?」」」

 

背後から聞こえた声に振り向くと、そこには日本刀で首を貫かれた仲間の姿があった。魔法を封じられた者が、早々に武器を手放すとは予想だにしなかったのである。だが一瞬とは言え、振り向いたのは油断でしかない。すぐ様向き直った3人だったが、そこにルークの姿は無かった。

 

「「「っ!?」」」

「逃げられると・・・ましてや生かして捕らえるとでも思ったか?」

「「「なっ!?」」」

 

3人が声のした方へ顔を向けると、頭部の無い仲間とそれを蹴り飛ばしたルークの姿があった。