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Shining Rhapsody

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341話 侵攻29

 341話 侵攻29

 

 

自分が駆り出される事は防いだが、それが1日続くかはわからない。だからこそルークは予定を繰り上げる事にした。防壁が破壊され、騒然とする王都を駆け抜け王城を目指す。

 

(まだ結構王都に残ってる者が居るんだな・・・まぁ勧告はした。自分の行為を正当化するつもりは無いが、これ以上は自己責任だろう)

 

王都に居座る人の多さに驚きつつも、彼らに何が起きても知った事ではない。そんな事を考えながら疾走する。命を奪う事に躊躇いは無いが、それも相手によりけり。自分達に害を為そうとする者に限られる。今回の場合、民には逃げる時間を与えているのだ。生まれ育った街を捨てられない。そう言った感情も理解出来なくはないが、そんなのは命あっての事。考え方は人それぞれなのだから、感情論に付き合ってなどいられない。

 

 

あれこれ考えている内に、気付けば硬く閉ざされた城門が見えて来る。予定を早めるとあって、ぶち破って乗り込もうとするが直前で立ち止まる。

 

「待てよ?下手に穴を開けて、そこから逃げられても面倒だな。寧ろこっちから塞ぐべきか」

 

観音開きの城門は閂をかけるその構造上、逃げる際には比較的容易に開ける事が出来る。だからこそ内側に壁を作って阻むより、見えない外側に壁を作った方が時間を稼げるだろう。見える位置に壁があれば、事前に多くの人手を集める。しかしそれなりの少人数でも開けられる城門ならば、無理に人を集めたりしない。人数が多ければ気付かれ易くなるし、権力者は我先にと逃げ出す場合がほとんどなのだから。

 

派手に塞いでは騒ぎが大きくなり、兵が集まって来るかもしれない。ルークは城門の前に立つ衛兵2人を生き埋めにする形で、キッチリ城門を覆う程度に土魔法を行使する。それでもかなりの大きさとあって、騒ぎ出す民もそれなりに居る。だからこそルークは、敢えて目立つようにゆっくりと城壁を飛び越えた。

 

「よっと。あぁ、邪魔するよ」

「「「「「は?」」」」」

「て、敵襲!」

 

城門に注意が向かないよう、近くに待機していた兵達に向け声を掛ける。かなり芝居掛かっていたのだが、衛兵達に気付くだけの余裕は無い。何せ侵入者は、10メートルに及ぶ城壁をいきなり飛び越えて来たのだ。彼らにとって初めての経験に、とっさにどう対処すべきか判断がつかなかった。

 

それでも全員が迷った訳ではない。経験豊富な中年の衛兵達が咄嗟に声を上げたのだ。しかし流石、と褒める事も出来ない。何故なら騒がれたくないルークの標的となり、瞬時に首を刎ね落とされてしまったのだから。

 

「「「「「なっ!?」」」」」

「そ、総員構え!」

 

宙を舞う仲間の首に、警戒を促したのは上官だろうか。そんな衛兵達に対し、ルークは残酷な現実を静かに告げる。

 

「もう斬ったよ」

「・・・何?」

 

ルークが放った言葉の意味が理解出来ず、一拍置いて上官が聞き返す。だがルークから返って来たのは、言葉でなくジェスチャーだった。

 

余りにもわかり易いそれに、衛兵達の表情はみるみる凍りつく。ある者は仲間へと視線を向け、ある者は武器を落とす。ルークがしたのは左手で首を斬る仕草。結局は誰一人としてじっとして居られず、全員が首を動かしてしまう。それが引き金となった訳ではないが、全員の首が一斉に宙へと飛び上がる。そんな彼らの回転する視界には、既にルークの姿は無かった。

 

 

その後も行く手を阻む者達を瞬時に斬り伏せながら、駆け足で城内を突き進む。やがて豪華な扉に行き当たるが、躊躇う事無く扉を蹴り飛ばした。

 

――ドォォォン!

 

「予想通り謁見の間か・・・でも、こっちの予想は外れたな」

 

室内を見回しながら呟いたのは、誰もが想像出来た内容。あれだけ立派な扉があるというのは、如何なる国でもまず間違いなく謁見の間。これに関しては、ほとんどの者が正解するだろう。しかしルークが呟いた後半部分に関しては、意見が分かれる所である。

 

「落とし前をつけて貰いに来たぞ?ミーニッツ国王」

「ば、馬鹿な・・・」

 

ルークに呼び掛けられ、呆然とするミーニッツ国王。てっきり寝室に閉じ籠もるか、隠し通路から逃げ出していると思っていたのだ。なのに只広いだけの部屋に座して居るなど、如何にルークと言えど考えを読み解くのに数秒を要した。

 

「しかし随分と多いな。・・・まさか、ここなら安全だとでも思ってたのか?」

「「「「「っ!?」」」」」

 

ズバリ言い当てられ、謁見の間に集まっていた多くの者達が一斉に息を呑む。

 

「やれやれ、舐められたものだな。まぁいいか。さて・・・誰から死ぬ?」

「「「「「ヒ、ヒィ!!」」」」」

 

全員を見回しながら告げられた言葉に、全員が震え上がる。だがその中の1人が勇気を振り絞って声を上げる。いや、抱いていたのは勇気などではなく、打算と言った方が良いだろう。

 

「お、お待ち下さい!」

「ん?」

「私はリノア王女達の居場所を存じております!!」

「ふ〜ん・・・で?」

「え?で、ですから、リノア王女達の居場所と引き換えに――」

「いらん!」

「なっ!?」

「前にも言ったが、取引には一切応じない。悪党の言う事は信用しないし、そもそも悪党に貸す耳を持ち合わせていない。だからこれ以上汚い声で喚くな!黙って死ね!!」

「そ、そんな・・・」

 

 

これまで、ルークの宣言を本気で信じる者など居なかった。何かしらの戦略と考えていたのだ。しかし今のやり取りで、誰もが大きな間違いだった事に気付く。先人の言は偉大である。後悔先に立たず。知識とは活用してこそ。知っているだけではダメである。残念ながら彼らは、自らの命という代価を支払い実感するのだった。